【ブログ】リスクアセスメントで築く持続可能な事業インフラ Part 0:なぜ、サイバーセキュリティ対策が必要なのか(12/15)

SOMPO CYBER SECURITYでコンサルタントを務める私、山田 淳二が「リスクアセスメントで築く持続可能な事業インフラ」というテーマで、新しいコラム企画をお届けして参ります。
この領域における20年を超える現場経験から培った知見や見えてきた課題、またその解決方法など、みなさまの参考になるよう、具体的な例を交え、紹介していきます。
初回となる今回は「なぜ、サイバーセキュリティ対策が必要なのか」という根本に立ち返り、Part0として、解説します。
「サイバーセキュリティは経営の最重要課題」
このフレーズを耳にする機会は増えましたが、実際の職場で、その真意はどの程度、従業員一人ひとりに伝わっているのでしょうか。
「またパスワードを変えるのか…」
「USBメモリが使えたら便利なのに」
「情報システム部門(情シス)は融通が利かない」
組織を守る、つまりは私たち従業員を守るために導入されたはずのセキュリティ対策が、不満の要因となり、セキュリティ担当者(情シス)が煙たがられる。残念ながら、これは多くの日本企業で共通して見られる光景です。
しかし、コンサルタントとして、数多くの組織をご支援する中で、強く確信していることがあります。それは、情シスは、従業員と組織をサイバー攻撃の脅威から守るための「要」であり、セキュリティ対策とは「みんなが安心して働ける環境づくり」そのものである、ということです。

突然、日常が奪われる ―サイバー攻撃の現実―
ある朝、情報システム部門のAさんは出社して愕然しました。受発注システムにつながらない、共有フォルダは暗号化され、あらゆる部署からの電話が鳴り止まない。従業員は、普段行っている業務を遂行できず、途方に暮れるばかり…。
これは私が支援した企業で実際に起きた話です。
攻撃者の狙いは企業のシステムやデータかもしれません。しかし、その影響を直接受け、苦痛を強いられるのは、そこで働く従業員一人ひとりでもあります。
- 予定していた業務ができない
- 顧客や取引先への対応に追われる
- 「何が起きているのか」「どうなるのか」という見えない恐怖
「制限」ではなく、「安全のためのインフラ」としてのセキュリティ対策
サイバーセキュリティ対策は、しばしば「制限」や「足かせ」として捉えられがちです。しかし、その本質はむしろ逆で、安全なビジネス活動のための「インフラ」なのです。代表的な「制限」とその本来の意味を挙げてみましょう。
- 認証強化
従業員へのなりすましを防ぎ、一人ひとりを不正アクセスから守ります。 - メールのセキュリティ対策
従業員が無自覚にフィッシングメールやマルウェアの餌食になることや誤送信による情報漏洩に対するリスクを低減します。 - USBメモリの利用制御
従業員が意図せずマルウェアを持ち込んだり、機密情報を外部に流出させたりするリスクを排除し、自身が犯罪の加害者とならないように守ります。
これらは本来、従業員に余計な負担や注意を強いるのではなく、むしろ従業員が本来の業務に集中できるよう、裏側で安全を支える仕組みです。これは、日常的に私たちが遵守している交通ルールや、ホテルなどの防犯対策に例えることができます。普段、意識されることは少ないかもしれませんが、私たちが日々守っている交通ルールや、宿泊先における防犯対策といった基本的なインフラがなければ、私たちの日常生活における安全と安心、そして円滑な社会活動は損なわれてしまいます。
同様にサイバーセキュリティも快適なビジネス空間を維持し、安定的な事業活動のための、見えない、しかし不可欠な「インフラ設備」なのです。
問題は対策ではなく「説明不足」
サイバーセキュリティ対策が現場で敬遠されがちな背景には、「対策」そのものの問題ではなく、「説明不足」が原因であることが多いと感じています。
なぜ対策が必要なのか、その理由を従業員に十分に伝えられていない。
対策を講じることによる従業員一人ひとりへのメリットや、どのように安全が向上するのかが具体的に示されておらず、結果として「情シスが一方的に、従業員の利便性を損なうような対策を導入している」と見られてしまいがちなのです。
私たちは組織に対し、次のように提案しています。
サイバーセキュリティ対策を単なる「禁止事項」として伝えるのではなく、「皆さん(従業員)の安全と安心を守るための、重要な仕組み」として伝えましょう、と。
例1)
この新しい認証システムを導入することで、あなたのアカウントが不正利用される心配がなくなり、安全に取引先とデータを受送信できるようになります。これは、皆さんが快適に業務を遂行するために、セキュリティを強化したサポートです。
例2)
このメールセキュリティ強化策は、一部運用に負荷がかかる部分もありますが、皆さんが情報漏洩という重大なインシデントに巻き込まれないための対策であり、またお客さまを守るための重要な会社としての取り組みです。協力をお願いします。
このような伝え方をすると、現場の空気が明確に変わる瞬間があります。
こうして、情シスは、従業員にとって「制限」を課す存在ではなく、「安全を守るための味方であり、共に働く仲間」と、理解され始めるのです。
「セキュリティ対策への投資はコストではなく、未来への投資」その真意
私たちは、多くの企業を支援してきた経験から、サイバーセキュリティ対策の必要性を痛感してきました。そして、冒頭に記した「サイバーセキュリティは経営の最重要課題」というフレーズと同様に、昨今、よく耳にするのが「セキュリティ対策はコストではなく、投資である」というフレーズです。しかし、その「投資」が具体的に何を意味し、なぜ重要なのかが、多くの企業で正しく理解されていないのが現状だと感じています。
「投資」という言葉は、往々にして短期的な費用対効果を期待させますが、サイバーセキュリティへの投資は、それだけでは語れません。ここでは、私たちが考える「サイバーセキュリティへの投資」の真の価値を改めて説明します。
私たちの考えるサイバーセキュリティに対する考え方
サイバーセキュリティ対策は、単に外部からの攻撃を防ぐ「防御」だけを目的とするものではありません。それは、企業が社会的な信頼を維持し、事業を安定的に継続するための「生命線」であり、従業員一人ひとりが安心して、その能力を最大限に発揮できる「インフラ」です。このインフラが揺らげば、事業継続そのものが危機に瀕するリスクを常に抱えることになります。
セキュリティ対策への投資とは
ここでいう「投資」とは、単なる金銭的な支出を超えた意味を持ち、企業で働く従業員が、日々の業務を通じて生み出す価値(利益)そのものが、サイバーセキュリティ対策を継続し、強化していくための源泉です。つまり、従業員一人ひとりが、自らの労働によって得られた成果を、自分たちの職場環境の安全性と持続可能性を守るための活動に、間接的に「投資」している、という構造です。
投資家は従業員、利益は安全・安心な職場
この考え方に基づけば、セキュリティ対策への投資における「投資家」は、紛れもなく「従業員自身」となります。なぜなら、彼らが創出した利益が、対策の実行を支えているからです。
そして、その「投資」によって得られる最大の「利益」は、紛れもなく「従業員が安全に安心して仕事ができる環境の提供」に他なりません。
サイバー攻撃によるインシデントが発生した場合、社内外へのその影響は計り知れません。
- 業務停止による直接的な経済的損失
- 顧客からの信頼失墜、ブランドイメージの低下
- 訴訟リスクや規制当局からの罰金
- 従業員への多大な精神的負担、キャリアへの悪影響
これらの「攻撃がもたらす損失」による最悪の事態を回避すること、それこそがセキュリティ対策への投資によって得られる、そして、従業員にとって最も価値のある、普遍的なリターンなのです。
この視点を持つことで、セキュリティ対策は、単なる「やらされ感」のあるコストとして捉えたり、短期的な費用対効果を期待するものではなく、「未来の事業継続と、従業員の働きがいを守るための、賢明で不可欠な投資」として、経営層にも従業員にも、その必要性と価値が明確に理解されるはずです。

サイバーセキュリティの真価:企業価値を高め、誇れる会社に
全従業員が誇れる会社づくり──安全・安心な職場環境の提供
サイバーセキュリティ対策は、単にサイバー攻撃から企業を守るというビジネス上の課題に留まりません。それは、そこで働くすべての人が、自分たちの職場を「誇れる」場所にするための、不可欠な要素です。
安全で安心して仕事に取り組める環境は、従業員のモチベーション向上、ひいては生産性向上、そして優秀な人材の定着率向上に直結します。従業員が「ここで働いていてよかった」と心から思える、そのような安心できる職場環境こそが、従業員にとって最大の価値であり、組織の持続的な競争力を高める重要な源泉となります。
セキュリティ対策は、柔軟で効率的な働き方を実現する土台
従来、セキュリティ対策というと、業務の制限や煩雑な手続きを連想させがちでした。しかし、現代の高度なセキュリティ対策は、その印象を覆します。それは単なる制限ではなく、むしろ柔軟で効率的な働き方とビジネスを、安全かつ安心できる環境を支える強固なインフラです。
クラウドサービスの活用やリモートワークの推進は、時間や場所にとらわれない柔軟な働き方を可能にし、生産性向上にも大きく貢献します。しかし、同時に情報漏洩や不正アクセスのリスクといった、新たなセキュリティ課題も生み出します。適切なセキュリティ対策を講じることで、これらのリスクを効果的に軽減し、私たちは安全に、かつ安心してこれらの恩恵を最大限に享受することが可能になるのです。
つまり、セキュリティ対策は、ビジネスの柔軟性を阻害するものではなく、むしろ安全性を担保した上で、より一層の柔軟性と効率性を高めるための触媒となるのです。
さらに、サイバー攻撃などのインシデント発生時には、専門チーム(CSIRTなど)が迅速かつ的確に対応することで、ビジネスへの影響を最小限に抑えます。安心して業務に集中できる環境が保たれることは、結果として生産性向上にも大きく貢献するという事実を、私たちは正しく理解し、伝えていく必要があります。
ステークホルダーからの信頼と企業価値向上への貢献
サイバーセキュリティ対策は、社内だけでなく、今や、顧客、取引先、株主といったあらゆるステークホルダーからの信頼を勝ち取る上で、不可欠な要素です。
情報漏洩やシステム障害といったインシデントは、取引停止、株価下落といった、取り返しのつかない経済的損失に直結し、インシデント発生時の対応を誤ると、企業イメージの著しい悪化、顧客離れを招き、ビジネスに深刻な打撃を与えることになります。
一方で、十分なセキュリティ対策を講じた上でサイバー攻撃を受けたとしても、その後の迅速かつ適切なインシデント対応によって、むしろ企業としての信頼度や評価を向上させるケースもあります。高度なサイバーインシデント対応体制を構築し、それを適切に運用しているという事実は、ステークホルダーからの高い信頼獲得につながります。そして、この信頼こそが、企業のレピュテーションを高め、結果として企業価値の向上に不可欠な推進力となるのです。
最後に
「なぜ、サイバーセキュリティ対策が必要なのか」それは、サイバーセキュリティとは何なのかを理解することでおのずと見えてきます。このコラムで書いてきたことをまとめると:
- サイバー攻撃から組織と従業員を守るための「防ぐ力」となるから
- 快適なビジネス空間を維持し、安定的な事業活動のための、不可欠な「インフラ設備」であるから
- リスクを効果的に軽減し、安全かつ安心して新しい技術の恩恵を最大限に享受することが可能となるから
- ステークホルダーからの信頼を勝ち取る上で不可欠だから
とは言え、なかなか上手くその重要性が理解されない理由は多くの場合:
- 敬遠されがちな背景には、「対策」そのものの問題ではなく、「説明不足」
解決策としては:
- サイバーセキュリティ対策を単なる「禁止事項」として伝えるのではなく、従業員の安全と安心を守るための、重要な仕組み」として伝える
- セキュリティ対策への投資における「投資家」は、紛れもなく「従業員自身」であり、その「投資」によって得られる最大の「利益」は、紛れもなく「自らが安全に安心して仕事ができる環境」であるという視点から伝える
このように、サイバーセキュリティ対策を強化することの真意は、単にサイバー攻撃から企業を守ることのみに留まりません。従業員への安全・安心な職場環境の提供、柔軟で効率的な働き方の実現、ステークホルダーからの信頼の獲得など、多岐にわたって企業価値の向上に貢献するものです。
多くのお客さまの現場に寄り添い、サイバー攻撃の脅威に立ち向かってきた経験から培われた知見と、このコラムで述べてきた「セキュリティ対策は、従業員と組織の安全・安心、そして企業価値向上のための投資である」という揺るぎない信念に基づき、私たちはこれからも、各社の実情に合わせた、真に現場に役立つ、そして未来を見据えたセキュリティコンサルティングを提供してまいります。
企業の成長と、そこで働くすべての人々の安全・安心な未来のために、私たちは全力で支援し続けます。
次回は、1月に「経営戦略とサイバーセキュリティ ~リスクアセスメントの現場から~」と題したコラムをお届け予定です。お楽しみに!
上席コンサルタント 情報処理安全確保支援士
サイバーリスクアセスメントサービスのご紹介
SOMPO CYBER SECURITYでは、セキュリティ対策の第一歩であるリスクの可視化による現状把握、それに続く効果的な対策計画の立案をサポートするサイバーリスクアセスメント コンサルティングサービスを提供しています。
アセスメントの実施概要と流れ
今回は代表的なリスクアセスメントサービスを事例として紹介していますが、サイバーリスクアセスメント コンサルティングサービスでは、他にもペネトレーションテストなど、各組織のニーズと予算に合わせた組み合わせでご利用いただけるよう、豊富なオプションをご用意しています。
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