%{FACEBOOKSCRIPT}%
  1. HOME
  2. コラム
  3. エコシステム
  4. エコシステム:ハイテク輸出大国イスラエルを生み出したからくり その3 民間企業

エコシステム:ハイテク輸出大国イスラエルを生み出したからくり その3 民間企業

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
エコシステム:ハイテク輸出大国イスラエルを生み出したからくり その3 民間企業
イノベーション大国としてのイスラエルの歴史や技術を紹介する"The Peres Center for Peace and Innovation"(撮影: 福室)

Maor Schwartz@SOMPO CYBER SECURITY | 2021年7月9日

「エコシステム:ハイテク輸出大国イスラエルを生み出したからくり」と題して「軍隊」と「教育・研究機関」の紹介をしてきましたが、今回は「民間企業」の果たす役割やその特徴について取り上げます。引き続き、案内役を務めますのはSOMPO CYBER SECURITYでシニアリサーチャーを務める私、Maor Schwartz(マオール・シュワルツ)です。

イスラエル経済を支える重要資産:人材と技術

エコシステム:ハイテク輸出大国イスラエルを生み出したからくり その2 教育・研究機関」でも説明しましたが、イスラエルのサイバーセキュリティを専門にした学部には「技術、ビジネス、文化のシナジーを実現している先進的な企業や施設への訪問」というシラバスが存在し、実践に向けた「ハンズオン教育」が盛んです。企業と大学や研究施設の間の交流は非常に盛んで、共同のリサーチプロジェクトから企業の経験豊かな専門家が講師となる特殊な教育プログラムまで、その取り組みは様々です。

軍隊や大学などの研究機関でハンズオンの実践を重ね、臨機応変な柔軟な思考能力や行動力を身につけている優秀な人材や彼らによる課題解決に直結する技術開発は、イスラエルの重要資産です。

これはイスラエルにオフィスを構えるグローバル企業にとっても同じ事です。

イスラエルに拠点を開設することによって、その豊富でハイレベルな人材や技術開発にアクセスを確保することは世界の名だたるIT企業にとってここ20年ほどで当たり前といっても過言でないレベルに達しているかと思います。研究開発拠点に限って言えば、現在では、日本からの5社(東芝、TDK、Sony、三菱商事、Honda)を含むアメリカ、中国、ドイツなど380を超える企業がイスラエルに拠点を設けています。開発拠点ではなくても、リサーチ機能を備えたオフィスなどを入れるとその数はさらに多く、SOMPOホールディングスもデジタル戦略拠点として「SOMPO Digital Lab Tel Aviv」を2017年に開設しています。

2019年の統計によれば、こうしたMultinational Corporationsと呼ばれる多国籍企業からの税収は全体の18%を占めており480億ドル(5.3兆円)、約62000人の雇用を生み出しており、イスラエル経済の成長を支える重要な柱の一つとなっています。

起業家精神

イスラエルは四国ほどの国土しか持たない中東の小国です。

国内の市場規模は限られており、イスラエルの産業やその経済成長は輸出が頼りです。

みな、海外での成功を夢見て、起業します。

entrepreneurship(起業家精神)」 これはイスラエルを表現するときによく使われる単語です。

寄らば大樹の陰という諺がありますが、ともすれば、大企業で働くことがステータスとなりうる日本とは違い、ハイテク産業が盛んなイスラエルでは、自ら会社を立ち上げたい、ソリューションを開発したい、スタートアップで働きたいと思う若者も少なくありません。安定を求めるか、冒険を求めるか、スタートアップの自由でカジュアルな企業文化も魅力です。給与水準も高いハイテク業界ですが、スタートアップに勤める人の多くは入社と同時にオプションの配当を受けます。数年後、勤務先がIPOやM&Aをすると、オプションを手放し、将来性のありそうな新しいスタートアップに鞍替えをしたり、温めていたアイデアを具現化するための起業の資本金に充てたりします。これは決して珍しい話ではなく、ハイテク業界に身を置く人にとってはよくある話です。

起業家精神を支える人たち

イスラエルのスタートアップを見渡すと、平均年齢はかなり若く、年を重ねるとみな、どこへ行ってしまうのだろうと疑問に思うこともあります。

そんな人生の先輩方を見かける場所の一つがインキュベーターやアクセレレーターを含むベンチャーキャピタルです。

起業したい人を支える側で活躍する人たちです。

イスラエルではベンチャーキャピタルによる投資も非常に盛んです。国内のベンチャーキャピタルはもちろんですが、海外からの投資も含まれます。イスラエルにおける技術開発能力や課題解決の着眼点は投資家にとっても魅力です。ユニコーン企業となり、将来的にはIPOやM&Aを期待できる素材を求める投資家と、世界市場における成功を夢見て、資金調達に奔走する起業家の世界はイスラエルでは意外と身近なものなのです。

下記のグラフを見るとわかるのですが、紺色のシード段階にあるスタートアップへの投資額が増加傾向にあることが見て取れます。

出典:IVC data processed by the Israel Innovation Authority

さらには、COVID-19の感染拡大で世界的にはあまり明るい経済界の話題に乏しかったこの1年でさえも、イスラエル企業への投資活動にはさほどの影響は見られませんでした。

2021年第一四半期のイスラエルにおける投資環境の実態を少し紹介しましょう。

  • 172件 53億7400万ドル
  • 1億ドルを超える投資案件 20件 (投資総額の55%)
  • M&Aの活動はCOVID-19以前の水準まで回復

下記は主要IT産業のカテゴリー別投資額を四半期毎に追ったグラフです。

濃い青がサイバーセキュリティへの投資額ですが、過去1年で増加傾向にあることがわかります。

出典:IVC-Meitar The Israeli Tech Review Q1/2021

「2020年、イスラエルにおけるテクノロジーに対する投資額の約25%がサイバーセキュリティ系のスタートアップへの投資だったと言われています。エコシステムが才能あるセキュリティ系の起業家を量産するのに大いに役立っていることを容易に想像できるかと思います。」と語るのは当社の「医療機関向けセキュリティリスクマネジメントサービス」で技術提携をしているMedigate社の共同創業者であり、CEOでもあるJonathan Langer氏。

「私たち、MedigateもYL Ventures(シードステージにあるサイバーセキュリティ系のスタートアップを主に支援しているイスラエルのVC)を始めとする複数のVCから投資を受けています。Medigateのような医療機器に特化したサイバーセキュリティ事業というのは新しい分野であり、医療機関が抱える課題を解決すると同時に才能ある社員に更なる成長の機会を与えることもできており、多角的に社会貢献できるということは喜ばしいことです。」

Medigate社の共同創業者であり、CEO(最高経営責任者)を務めるJonathan Langer氏(ヨナタン・ランガー氏)

SOMPO CYBER SECURITYとイスラエル

SOMPO CYBER SECURITYもこうしたイスラエルのエコシステムという仕組みの恩恵にあずかっている日本企業の一つです。

当社が日本総代理店として技術提携をしているサプライチェーンリスク評価サービス「Panorays」はイスラエル空軍のエリートサイバー部隊のオフィサーたちによって起業されました。

同じく医療機関向け セキュリティリスクマネジメントサービス「Medigate」は、今では医療機器のサイバーセキュリティという分野において、世界をけん引するまでに成長した企業ですが、イスラエルの81部隊と呼ばれる技術系部隊の出身者によって創立されました。

軍隊というパブリックセクターや教育施設や研究施設で得られた実践的な経験値は、こうしたプライベートセクターで商業化され、国の経済成長に貢献し、そこで得られた利益は再び投資や教育という形で社会に還元される循環システム(エコシステム)ですが、この循環システムが成立し、うまく回るようになったのは、まだ紹介できていない最後の重要要素、政府による仕組みづくりのための積極的な働きかけがあったからこそです。

政府の役割については次回紹介予定です。

  • LINEで送る
  • このエントリーをはてなブックマークに追加