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エコシステム:ハイテク輸出大国イスラエルを生み出したからくり プロローグ

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エコシステム:ハイテク輸出大国イスラエルを生み出したからくり プロローグ

“The Peres Center for Peace and Innovation” 4年前に亡くなったシモン・ペレス前大統領によって設立されたイスラエルの技術革新とその精神、人々の平和への願いを伝承するための施設でDREAM BIG(夢は大きく)は同氏の「人生唯一の後悔は大きな夢を追わなかったこと」というコメントから

Maor Schwartz@SOMPO CYBER SECURITY | 2020年8月31日

数多くのスタートアップを輩出し、多くの多国籍企業が研究開発拠点を構えるイスラエル。

一夜にしてこの土壌が整ったわけでもなく、もちろん自然形成された仕組みでもありません。

このブログでは、イスラエルを世界が注目するIT先進国へと変貌させたその仕組みを「エコシステム:ハイテク輸出大国イスラエルを生み出したからくり」と題し、全6回にわたり紹介していきます。

案内役を務めますのはSOMPO CYBER SECURITYでシニアリサーチャーを務める私、Maor Schwartz(マオール・シュワルツ)と同僚でプロダクト戦略部の部長を務め、過去には在日イスラエル大使館経済部でセキュリティ産業における日本とイスラエルの橋渡し役を務めたAssaf Marco(アサフ・マルコ)の2名です。

もちろんサイバーセキュリティ産業もこのエコシステムの中で急速な成長を遂げてきた注目分野の一つです。私たちのイスラエルでの実体験を交えつつ、サイバーセキュリティ業界においても優れた技術開発を続けるイスラエルの仕組みを解説していきます。

初回となる今回は私自身の自己紹介と「イスラエルのエコシステム」の概要を簡単に説明したいと思います。

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Maor Schwartz(マオール・シュワルツ)

   ◆イスラエル出身

   ◆15歳で大学に進学し、政治学と国際関係論を専攻

   ◆軍隊時代は空軍のインテリジェンス部隊、及び8200部隊と呼ばれる諜報機関に所属

   ◆7年間軍に勤めた後、「サイバーオフェンス(ホワイトハッカー)」と「サイバーディフェンス」

   ◆両方の専門知識を活かし、民間企業でサイバーセキュリティ業務に従事

   ◆Black Hat USA 2019に登壇
    講演タイトル 『Selling 0-Days to Governments and Offensive Security Companies』

   ◆2019年5月より SOMPO CYBER SECURITYでシニアリサーチャーとして勤務

 ★ 愛読書:五輪書(宮本武蔵の著した兵法書) ★

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Black Hat 2019で登壇したマオール・シュワルツ(撮影: 熱海 徹)

15歳で大学に進学というのは、イスラエルでももちろん普通のことではありません。日本で言う「飛び級」とは違い、普通の高校生活を送りつつ、午後の空いている時間を利用してオープン大学で勉強をしていました。当時から歴史に夢中で、お気に入りだった先生に「歴史の勉強をもっとしたい!」と相談したところ「大学で勉強できるよ」と言われたのがきっかけです。決して出来の良い生徒ではなかったので、先生は冗談のつもりで言ったのかもしれません。

しかし、私は冗談のつもりはなく、先生が大学の電話番号を教えてくれたので、自ら電話をかけて調べ、両親を説得し、15歳にして、私の高校と大学の「二足のワラジ」生活が始まったわけです。

イスラエルでは大学で勉強をしたい人は前提条件なしに入学することができます。イスラエルにはこうした本人の興味や才能に向き合い、重んじる教育を大切に扱う風土があります。もともとある自由でオープンな雰囲気と国民性と相まって、この「柔軟性」のある風土は、イスラエルをスタートアップがひしめき合うIT先進国にまで成長させた重要な要素の一つでもあると思っています。

歴史に夢中だった私がサイバーと出会ったのは、入隊後のことです。

イスラエルでは男子には18歳から3年弱、女子には2年の兵役が課されます。私の場合、兵役が満期を迎えた後も軍隊に残ったのですが、入隊後の最初の5年は空軍のインテリジェンス部隊に所属し、そこでオフィサーを務めた経歴が買われ、その後、2年間8200部隊と呼ばれる諜報機関に勤めました。8200部隊は米国のNSA(国家安全保障局)や英国のGCHQ(政府通信本部)に匹敵するイスラエル政府の諜報機関です。8200部隊で習得したハイスキルを武器に、サイバーセキュリティ業界を始め、イスラエルのスタートアップで活躍する若者には8200部隊出身者が多いことをご存じの方も少なくないと思います。

私の祖国イスラエルは25年以上にわたり、情報セキュリティ技術の開発における先駆者として、世界を牽引してきたと言っても過言ではありません。地政学上、注力せざるを得なかったという背景を巧みに利用し、世界でも通用するソリューションを次々に生み出してきました。政府の支援態勢も整備されており、革新的なサイバーセキュリティソリューションの開発拠点として、またサイバー政策の先駆者として認識されるまでに成長を遂げたのです。

イスラエルのエコシステム:産業界・政府・軍隊・大学などの研究機関の連携

イスラエル政府は、サイバーセキュリティ産業を「経済成長の原動力」と見なしており、グローバルな競争力をもつ優位性のある分野であると位置づけています。

世界的な競争力をつけるためにイスラエル政府が計画・実行してきたことは多数ありますが、代表的なものが『エコシステムの確立』です。

イスラエルの南部に位置するベルシェバという街にあるAdvanced Technologies Park と呼ばれる巨大施設を例にとってみましょう。

この施設はイスラエル政府の指揮のもと建設され、ベングリオン大学との連携で運営されていますが、Oracle、Dell EMC、JVP Cyber Labs、CERT-IL、ドイツテレコムなど、2020年1月現在70社ほどの多国籍企業の研究開発部門が入る研究開発センターがあります。ここには大手企業の研究開発施設だけではなく、スタートアップ企業を支援する役割もあります。また、イスラエル軍の研究開発施設も併設されています。

官民一体となって技術革新を起こし、それを商業化し、市場に送り出し、成功を収めた人が指導者になり、後に続く後継者を育てるという、エコシステムを確立させるという政府の目的が背景にありました。このエコシステム自体はイスラエル全体に存在するものですが、Advanced Technologies Parkはそれを1か所に集結させた巨大施設なのです。まだ開発途中で、完成には10年かかると言われていますが、完成した暁には東京ドーム4個分を超えるオフィススペースとなり、ホテルや展示会場も併設予定です。

イスラエルは1948年の建国以来、地政学的に困難な状況に置かれてきました。

土地、水、人材、全てにおいて限られた資源を有効に使うことが求められ、軍事能力の開発も同じことです。コンピューターが私たちの生活の一部になるにつれ、サイバー防衛はイスラエル軍にとって非常に重要な活動になりました。

長年に渡る情報収集とサイバーセキュリティの実践により、イスラエル軍の8200部隊や他の情報組織は類まれなる進化を遂げ、サイバーセキュリティやその他のハイテク分野におけるイスラエルのスタートアップのインキュベーター兼アクセラレーターへと発展していったのです。

こうした一連のエコシステムをうまく活用して大口の資金調達を行ったり、大手グローバル企業に買収されたりするスタートアップも少なくありません。イスラエルのサイバーセキュリティ業界における近年の例を挙げてみましょう。

2019年1月Imperva:

Thoma Bravoにより21億ドルで買収

2019年2月Demisto:

Palo Alto Networksにより5億6000万ドルで買収

2020年1月Armis:

Insight Partnersにより11億ドルで買収

こうして大手に買収されると、配当金とそこで得た経験を元手に新しいスタートアップを起業する人もいれば、新しいチャレンジを求めてより若いスタートアップに転職をする人もいます。グルグルと巡るイスラエルのエコシステムのイメージが少し湧いてきたのではないでしょうか。

冒頭の自己紹介でも少し触れましたが、私自身も8200部隊の出身です。

こうした部隊は、研究開発を実践に活かす場所を与えてくれます。最先端のサイバーセキュリティ技術に触れ、現実世界における課題と向き合い、解決策を探るという機会を与えてくれるのです。

これはスタートアップの環境にもよく似ています。

チームワークとは何かを学び、マネジメントを学び、限られた時間の中で重要な決断を下すことを学び、下した決断に責任をもつことの意味を学び、失敗を生き延びることを学びます。こうした経験全てが、退役後に起業家を生み出す土壌を作っているのです。

イスラエルはこうした特殊な環境で育った人材の宝庫であり、国を挙げての支援態勢は、多国籍企業にとっては非常に魅力的に映るのです。

SOMPOホールディングスではデジタル化を迎えた新時代にイスラエルの可能性を早い段階で認識し、イスラエルのスタートアップエコシステムに着目、最新技術の動向把握やスカウティングを目的としたデジタル戦略拠点であるSOMPO Digital Labを2017年テルアビブに開設しました。

SOMPO CYBER SECURITYでは、SOMPO Digital Labとも連携しつつ、イスラエル発の最新技術を採用しています。

興味のある方はこちらからお問い合わせください。

今回はイスラエルのエコシステムの概要について紹介しましたが、次回はエコシステムの中の軍隊の役割について掘り下げていきたいと思いますのでお楽しみに!

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