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イスラエル箸休め企画 第四弾『口からキノコが生えました』 ~間違いから学ぶ~

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イスラエル箸休め企画 第四弾『口からキノコが生えました』 ~間違いから学ぶ~

ミティラー画テイスト
「口からキノコが生えました」
(Illustrated by Minato Uemura)

Makiko Fukumuro@SOMPO CYBER SECURITY | 2022年3月31日

記事に関するご意見・お問い合わせはこちらへお寄せください。
(SOMPOホールディングス、損害保険ジャパンなどグループ各社へのお問い合わせはご遠慮下さい)

SOMPOホールディングスは、2017 年 11 月に日本の保険会社として初めてイスラエルのテルアビブにデジタル戦略拠点「SOMPO Digital Lab Tel Aviv」を開設し、サイバーセキュリティを含む複数の領域においてイスラエルのスタートアップ企業との協業の検討や実証実験を行なっています。 現在、SOMPO CYBER SECURITYでも複数のイスラエル企業と技術提携をして、日本のお客さまにサービスを提供しています。

そうした経緯から、イスラエルに関するコラムをお送りしています。

この『イスラエル箸休め企画』の案内役を務めますのは、前回同様SOMPO CYBER SECURITY 事業企画部所属の私、福室 満喜子です。9年ほどイスラエルに住んでいたことがあり、イスラエルのスタートアップ3社での勤務経験もあります。

今回で第四弾となるこの箸休め企画、ホラー映画を彷彿とさせる恐怖のタイトル『口からキノコが生えました』から皆さんが想像されるのはどんなシーンでしょうか。

私の場合、まさにこの右の絵にあるような状態を想像しました。

さすがにこのような手持ちの写真はなく、素材サイトにあるわけもなく、知り合いの「みなとちゃん」に依頼して描いてもらいました。はい、これは私の肖像画、ポートレートです。

*インドのビハール州に伝わるミティラー画という様式のテイストを使ってもらっています。

サブタイトル「間違いから学ぶ」、生きていれば、誰しもが一度ならず、恥ずかしい勘違いや間違いで嫌な汗をかいた経験をしていることと思います。そして、これは特に言語学習の場面や異文化交流の場面においては、避けては通れない試練です。上手く避けて通れる方法があれば教えて頂きたいものです。

冒頭の画像にある「Lessons learned」とは、日本語で言うところの教訓のような意味があります。今回は、私の体験談をもとに、外国語学習におけるおススメの心構えや、イスラエル人の考え方などをいくつかご紹介します。言語学習や異文化交流に興味のある方、あるけど、最近、少し、モチベーションが下がり気味の方など、参考にして頂ければ幸いです。

口からキノコに学ぶイスラエルの公用語「ヘブライ語」の歴史

まず、ここで最初に説明しておくべきは、イスラエルの公用語であるヘブライ語でキノコを意味する「Pitriyot(ピトリヨット)」という単語です。これが今回のホラーの元凶です。

少しだけ真面目な話をしておくと、口語としてのヘブライ語は一度、根絶したのは皆さん、ご存じでしょうか?
日本語が話されなくなる、口語としての日本語が消える、想像しがたいですよね。
しかし、ヘブライ語ではそれが起きたのです。

ディアスポラ」という言葉を聞いたことがありますか?

ここでは細かく説明しませんが、要は「離散」して、パレスチナの地以外に住むようになったユダヤ人を指す場合によく使われる言葉です。北アフリカ、ヨーロッパ、中東の各地に離散しつつも、ユダヤ教という宗教を通して繋がっていた彼ら。その土地に暮らすようになり、話す言葉はその土地の言葉となり、ヘブライ語は彼らの経典や日々の祈りの言葉、つまりは「ユダヤ教という宗教に関連した言葉」としてのみ使われるようになりました。日常生活における口語としてのヘブライ語は西暦200年頃に一度消滅したと考えられています。日本はその頃はまだ、弥生時代 卑弥呼の頃ですから古事記以前の話です。
それから約1700年後、つまりは19世紀末、ヘブライ語を口語として復活させたい、日常の話し言葉としてヘブライ語を復活させたいと強く願う人物が登場します。Ben・Yehuda(イスラエルの各地に彼の名を付けたベンイェフダ通りが存在します)というロシア生まれの学者で、彼は19世紀末から、ヘブライ語の口語化運動に取り組み、20世紀初頭、この活動は実を結び、現在に至るわけです。

すごい執念を持った人です。
万葉集に使われている言葉を口語として蘇らせる!的なことをやり遂げた人です。

おーい、Pitriyot(キノコ)はどこへ行ったんだい!

はい、この箸休めコラムにしては珍しく真面目な前置きがPitriyot(キノコ)に繋がります。
長年、書物の中や祈りの場でのみ使われてきた言葉が口語となって現代に甦る、となると、色々困ったことが起きるのです。人々の日々の営みやさまざまな研究は、過去には存在しなかったモノや概念を生み出してきました。

例えば「電話」。
聖書にも祈りの中にも「電話」なんて登場しないのです。
では「電話」という単語を既にもつ言語から拝借しましょう。
ヘブライ語では英語のTelephoneをちょっと拝借しています。
携帯電話が使われ始めたとき、イスラエルでは「Pelephone」という単語も生まれました。
「Pele」はヘブライ語で奇跡という意味の単語なので「奇跡の電話」と、まあ、ドラマチックな命名です。

日本でもおなじみの「ネスカフェ」、これもネスレ社のコーヒーなわけですが、ヘブライ語では「Nes」も奇跡を意味する単語なので「奇跡のコーヒー」として受け入れられ、親しまれてきました。

というわけで、ヘブライ語とは、固有の単語の数は比較的少ない言語であると「ウルパン(ヘブライ語学校の総称)」で習いました。1800年前に一度は話し言葉としては消滅したヘブライ語ですが、昔からあった単語を変形させたり、外国語から拝借したり(一番拝借したのが英語とロシア語)して、口語へと見事な復活を遂げたのでした。

『Pitriyot(キノコ)』事件

では、みなさん、お待ちかねの口から生えてきたキノコの話に戻りましょう。

イスラエルに住んでいたある日、仕事中に突如、声が出なくなりました。

隣に座る同僚に話しかけようとして、それに気づきました。

口をパクパクさせる私に気付いた彼女は「どうしたの!?何があったの!?」と聞いてくるのですが、声は出ないし、どうして声が出ないのかなんてわかりません。鏡で口の中を見てみると喉も舌も真っ白になっていました。

徐々に痛みも出てきて、更には時間とともに痛みが増していきます。友達が症状を紙に書いてくれて、それを持って、病院に行き、お医者さんに言われたのが

「Pitriyotが生えています」

え!?キノコ!?
叫びたい、けど、声が出ない。
私が想像したのは、正にこの絵のような状態で、自分の口から成長して溢れ出てくるエノキダケでした。
恐怖しかありませんでした。地獄絵図です。
口をパクパクさせ、目に恐怖の色を浮かべる私を見て先生が笑顔で
「あ、違いますよ。この場合のPitriyotは英語で言うところのFungus(カビ・菌)です。」

カビ!?

それはキノコよりましなのか!?
よくわかりませんが、エノキダケが口からボワッと出てくるわけではなかったようでした。
確かにカビもキノコも菌で繁殖するので、同じ「Pitriyot」という単語を使うのも納得で、ヘブライ語ってよくできているなーと感心し、その日、私は一つ賢くなって帰路につきました。
その後、一週間ほど抗生物質を飲んで、私の口の中のキノコたちは姿を消しました。

私の勝手な想像ですが、「キノコ」は昔から食していたからPitriyotという単語は存在したけど、「菌」は新しい概念で「菌」を表す単語が存在しなかったので学者の方々が「Pitriyotを使ったらいいのでは?」「そだねー、キノコもカビも菌の一種だし、同じ単語でいいよね」って誰かが決めたに違いない!

いや、逆かもしれない。

パレスチナの土地は乾燥しており、豊富な種類のキノコがスーパーに並ぶようになったのは最近のことなので、Pitriyotはもともとカビという単語として使われていて、後に外から持ち込まれたキノコが菌で繁殖することを知って、キノコもPitriyotでいいのでは?となったのかもしれません。

どちらでもいいのですが、私の頭の中は常にこういうどうでもいいことでグルグルしています。

SiとShiの発音の違いに学ぶ

誤解は発明の母と言いますが、誤解は学習のきっかけです。
そして、この私の勝手な妄想力?想像力?は天からの賜物でもあり、私の大切で愛おしい長所でもあり、短所でもあります。
たくさん妄想して、たくさん間違えて、学んでいくタイプです。
「これが正解だよ」と手取り足取りも楽でいいのですが、私にはちょっとエキサイティングではない(物足りない)かもしれません。

20年以上前になりますが、東京は豊島区江古田にあるイスラエル料理屋で、定休日に店をヘブライ語教室として開放していた時期がありました。イスラエル人女性が教えていたのですが、日本語が使えない(もしくは使わない)先生で、しばらく通っていたある日「東京は兎に角人口が多い」と言いたかった私。当時は「人口」という単語を知らなかったので「人が多い」と言い換えて伝えようとしました。簡単、簡単、お茶の子さいさい、知らない単語はすぐに知っている単語に置き換えて説明します。

「anashim=人々」「harbe=たくさん」

ところが、私が間違えてanashimをanasimと発音してしまったところから、怪しい雲行きに。。。
先生の顔が急に険しくなり「Lo nochon!=噓でしょ!Beemet!?=ほんと!?Oivavoi=なんてことなの。この東京に。。。」(この畳みかける驚きの表現、意外と使えるので3つセットで覚えておきましょう!)

私が想像していた反応と違う。
何か誤解が生じているような。
身振り手振りで確認作業に入る私。
すると先生が「anasim=rapists(=強姦)」と。

anashimは人、anasimは強姦。

うわーーーっ

『東京は強姦で溢れ返っています!』と外国人女性に力説していた自分が恐ろしい&恥ずかしい。
でも、おかげで「強姦」という名詞と「強姦する」「強姦される」という動詞をしっかり覚えました。
転んでもただでは起きません!

間違いを指摘し、笑ってくれるイスラエル人に感謝

恥ずかしい思いをすると逃げ出したくなることもあります。
子供の頃、なんでこんなに画数が多い名前にしたのか、と親を恨んだ時期もあった私の名前。

「福室満喜子」

小学校の10問の漢字テストでは「用意、はじめ!」で早い子が10問解き終わる頃に私はやっと自分の名前を書き終える有様でした。しかも総画数は49。縁起悪くないか?と子供ながらに思ったこともあったこの名前。

「喜びに満ちた子」「ひと様を喜びで満たす子」

大人になって、しみじみとわかるいい名前です。
漢字一つ一つに意味がある、もしくは日本人の名前には意味があると知っている外国人は意外と多く、よく名前の意味を聞かれます。(ちなみにイスラエル人の名前の多くは聖書由来です)
自分の名前の意味を理解し、スラスラと英語で説明できるぐらいに準備しておくとよいですね。
私の場合、自分の名前の意味に関する説明ではかなり恥ずかしい思いをしたことがあります。
ここには書けないレベルの恥ずかしい話です。    

ある日、英語での私の説明を聞いていたイスラエル人に「その説明の仕方は別の意味に取られる可能性があるから、こっちの単語を使ったほうが良い。」と指摘されるまで、幾度となく、外国人に対し、繰り返していた説明なのですが、間違いではないにしろ、誤解を生む説明であることを指摘してくれる人はいませんでした。訂正する側も憚られたのでしょうが、単刀直入なイスラエル人は「憚らない」ので、即訂正。                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                                               

やはり、言葉の細かいニュアンスや使い方を理解していないと、ちょいちょい恥ずかしい思いはします。イスラエル人にヘブライ語で「ペリー来航」「開国」の説明をしていた時も大爆笑されたことがありました。これまた使った単語が間違いではないけど、誤解を生む使い方だったようです。

笑ってくれるイスラエル人は有難い限りです。
遠慮なく間違いを指摘してくれるイスラエル人も有難い限りです。
語学に限らずですが、イスラエルでの経験は間違いを恐れず、「間違いから学ぶ」、いや「間違いから楽しく学ぶ」ことを私に教えてくれたと思っています。

一晩寝て、朝起きたら、いきなり流暢に外国語を話せるようになっていた、なんてことはおこりません。

日々のちょっとした努力と恥ずかしい間違いや勘違いの繰り返しが、外国人との距離をグッと縮めるコツなのかもしれません。複数の言語を自由に操る人は必ずと言っていいほど、少し勇気を貰えて、少し笑えるエピソードの宝庫です。

興味のある方は、いつか、私を見かけたら声をかけてみてください。

私の名前にまつわる恥ずかしい話も、ペリー来航に関する恥ずかしい間違い話もお答えします!

言語学習や異文化交流では、勘違いや間違いはつきものです。
「やっちまった!」を即「ラッキー!」に脳内で変換できるようになれば、身につくスピードも楽しさも倍増すると思います。そして、相手の気持ちをおもんばかって遠慮する文化も美しいですが、「なんか違うよね」とストレートに間違いを指摘してくれるイスラエル人的ストレートな文化も有難いものなのです。

Israel Now イスラエル紹介コーナー【シャマイム】

空を自由に飛んで旅行ができるようになるまで、もう少しの我慢ですね。今回は、ちょっと頑張れば行けてしまう身近なイスラエルの一つを紹介することにしました。
前出の東京は豊島区江古田にあるイスラエル料理屋ですが、お店自体は今も存在します。「シャマイム(ヘブライ語で空という意味)」です。

前回の箸休め企画 第三弾でAssaf Marcoが紹介していたイスラエルのソウルフード「フムス」も入った食べ放題セットはコスパ抜群です。PASCOのフォカッチャのテレビCMで杉咲花さんが「シャクシュカ風です!」とやっているシャクシュカもあります。イスラエルでは、シャクシュカはキャンプ朝食の定番です。入り口は怪しいですが、中は中東の雰囲気を存分に味わえる素敵な造りになっていますので、怖がらずに天国への階段を上がっていきましょう!


左:シャマイム入口 右:シャクシュカ(撮影:福室)
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