セキュリティのデザイン:何故、思った事が出来ず「失敗」を恐れるか
皆さん、こんにちはSOMPO CYBER SECURITYでフェローを務める熱海(あつみ)です。
冬季北京オリンピック・パラリンピックでは、沢山の感動をもらいました。
NHKではオリパラでの仕事もしていましたので、懐かしく見ていました。
北京との時差も少ないため、TVは普通の時間帯で見ることが出来、寝不足にはなりませんでしたが、新型コロナウイルスの影響で海外への渡航計画も全く無くなり、時差による寝不足も久しく体感しておらず、それはそれで複雑な気分です。
そして人間の限界なのか、道具の限界なのか、競技会場の作り具合なのか分かりませんが、ルール違反ぎりぎりを責めるとなると、人間の競技なのかどうかという複雑な思いも残ったオリンピックでした。
「失敗」を克服した成功体験
ウインタースポーツ繋がりでお話をすると、僕は出身が仙台なのですが、実は日本フィギュアスケートの発祥の地が仙台なんです。およそ130年ほど前の明治時代に、仙台城の堀として造られたところで外国人教師がスケートを始め、1909年にドイツ人が旧制二高(現東北大)の学生に技術を教え、国内に広まったという事の様です。
僕がまだ仙台に住んでいた1970年代はスキー人口も多かったと思いますが、スケートの発祥の地だったことが理由かは分かりませんが、市内にはボーリング場と同じ様な大人の娯楽施設としてスケート場が点在していました。
スキーもスケートもお金がかかるスポーツなので子供には近寄りがたく、学校行事などの特別な時に出来るものでしたが、実は成人してからは26歳まで、本格的にフィギュアスケートをコーチについて習っていました。
何故本格的にやり始めたかと言うと、何気なく立ち寄ったスケートショップで店番をしていた人から
「もし、スケートが上手くなりたいのなら、早くマイシューズで体験してみることを勧める。スケートはバランスのスポーツで、自分の持っているバランス感をスケートのブレードに伝えないと上手くならないし、滑れない。また、ブレードから伝わってくる情報を感じないと滑れない。」
という話を聞いたことがきっかけになっています。
この話は非常に印象的で今でもはっきりと覚えています。
貸し靴で上達しないのはインフォメーションが上手く伝わらない為だという実感もあり、早速その日にマイシューズを買う事にし、少しの後悔と、上手く滑る可能性を信じて家に帰りました。
そして実際に自分に合ったシューズで滑ると確かに対話の質が非常に上がり、面白さを感じるのと同時に、上達を大いに実感する事が出来ました。そこから僕はスケートに熱中していき、店番としてその話を聞かせてくれた方に師事する事となりました。
そのコーチから教わった社会人生活にも役立つ示唆は数多くありましたが、それはまた別の機会にお伝えしたいと思います。
さて今日のコラムですが、オリンピックの選手のレベルになると、普段は上手く出来るのに試合で「成功した」とか「失敗した」とかは別次元の話かとは思いますが、何故思ったことが出来なかったり、上手くいかなかったりするのか「思考」について考えてみたいと思います。
今日もお茶でも飲みながらお読みください。
思考し過ぎるより重要なこと
僕がスケートを何故、本格的に習う気になったかと言うと、スケーティングが上手くなりたかったのは事実で、どんなに考えて滑っていても、自己流では全く上達しませんでした。自己流は悪いという訳ではなく、どんなに練習を重ねても「思考」が邪魔をしていたのではないかと思うようになりました。
当時、上手くならない理由として、靴が合っていない、転ぶのが恥ずかしい、失敗を気にする等の理由がありました。
一見、「思考」は、役に立ち、学ぶためには必要なように感じますが、実際は「思考」し過ぎるあまりに能力が落ち、物事が上手く運ばなくなっているように感じました。
「思考」の中にも色々とありますが、その中で一番気にしていたのは、失敗の恐怖だったかもしれません。
コーチから教わったことを繰り返し練習することで、恐怖心が消え、無心でスケートを楽しむことが出来た時、上手く出来るようになった気がします。
習う前は、失敗(転ぶこと)しないよう頑張ろうとする「思考」が働いて上手くできませんでした。
この部分をクリアしたことで、細かい事まで意識を持たなくても出来るようになり、次に何をやるのかもいちいち頭で考えなくて本来の能力を使う事ができるようになりました。
恐らく頭で考えようとするから、上手く運ばなかったり、何をしたらいいのか分からなかったり、上手にできなくなっているのではないでしょうか。不思議ですね。そこには正しい練習方法などが含まれるとは思いますが。
自分のスケートが出来るようになって気づいたことは、いちいち意識をしなくても、自分は上手く何でもできると信じているかどうかです。これができれば、いちいち思考が不要になります。
頭の中では、考えなくてもちゃんと次に何をやればいいのか分かっているし、どうすれば上手くいくのかも分かっているのではないでしょうか。
本来の自分を信じられるかどうかです。
スケートの競技で、冒頭に高難度の技を持ってきます。体力勝負もありますが、成功させることで勢いが生まれます。
ただ失敗すると後に引きずるリスクもあります。まさに、思考が働くかどうかではないでしょうか。
思考は妨害だけではないアート思考とビジネスの関係
少し整理しますね。
みなさん、意識しなくても家から出るときはちゃんと鍵を閉めていませんか。
しかし、それを意識しないと不安になってしまう事はありませんでしょうか。自分を信用すればいいことですが、自分で意識しないと不安になると、自分の本来の能力を使う事が出来ず、いちいち何かを考えながらでないとできなくなります。それが本来の能力を妨害しています。
たぶんこういう感覚って誰にでもあると思います。
それがいつからか、失敗を恐れるようになり、なるべく失敗しないよう意識するから、次にどうすればいいか分からなくなるし、自分で物事を決められなくなります。
頭でしっかり考えた結果でないと、不安になります。
今日は「思考」について考えましたが、個人が有する能力を存分に発揮するのは、思考が邪魔をするということでした。
しかし思考といっても色々あります。今回は触れませんでしたが、デザイン思考、アート思考など最近よく聞きます。
特にイノベーションを実現する発想は、アート思考が必要と聞きます。次回は、思考というキーワードから、アートとビジネスの関係について触れていきたいと思います。
熱海 徹 セキュリティのデザイン過去記事一覧
熱海 徹 プロフィール
上席フェロー
- 1978年4月 日本放送協会入局 システム開発、スタジオ整備、スポーツ番組に従事
- 2013年6月 本部・情報システム局にてサイバーセキュリティ対策グループ統括
- 2016年6月 内閣府 SIP推進委員、セキュリティ人材育成WS委員
- 2016年7月 一般社団法人ICT-ISAC-JAPAN事務局次長
- 世界的スポーツイベントに向けて放送業界セキュリティ対策に従事
- サイバーセキュリティ対策推進や経営層に向けたセキュリティ対応策について数多くのセミナー・イベントに登壇
- 2018年9月 SOMPOリスクマネジメント株式会社に入社
- サイバーセキュリティ事業のサービスに関する研究開発、技術評価、サービス企画開発等の統括、セミナー・イベントに登壇
- 2019年7月 経済産業省 産業サイバーセキュリティ研究会 有識者委員