脅威インテリジェンス(Threat Intelligence)は、サイバー脅威インテリジェンス(Cyber Threat Intelligence:CTI)ともよばれ、サイバーセキュリティのベンダーやアナリストなど、専門家が国内外のサイバー攻撃に関するさまざまな情報を収集・整理・分析したものを、知見として利用することです。
情報収集の方法は、自社や第三者機関などの研究結果や、わざと攻撃を受けやすい状態にしたおとりの機器(ハニーポット)、SNSやダークWebなど、多岐にわたります。
こうして得た知見は、脅威インテリジェンスのサービスや製品として、レポートや注意喚起情報としてユーザーに提供されます。
脅威インテリジェンスを構成する要素
脅威インテリジェンスは、IoC(Indicator of Compromise/侵害の痕跡)や攻撃者、脅威に関する情報などで構成されています。
こうした構成要素について、わかりやすくまとめられているのが「Pyramid of Pain(痛みのピラミッド)」です。
Pyramid of Pain(痛みのピラミッド)
「Pyramid of Pain(痛みのピラミッド)」は、米国のセキュリティ企業であるSqrrl(スクワール)社のDavid J. Bianco氏がまとめた、攻撃者が残す痕跡の分類方法です。
ピラミッド型の上の層から順に「TTP(戦術・技術・手順)」「ツール」「ネットワーク・ホストアーティファクト」「ドメインネーム」「IPアドレス」「ハッシュ値」となっており、上から3層が攻撃者や脅威のふるまいに関する要素、下から3層がIoCの要素です。
防御者にとっては上に行くほど対策としての適用は難しくなりますが、その分防御効果は高く(攻撃者に苦痛を与えることに)なり、下層に行くほど攻撃者は容易く変更が出来るためにその痛みは小さくなります。
TTP
TTPとは、Tactics, Techniques and Proceduresの略で、直訳すると、戦術、技術および手順となります。もともと、テロリズムの脅威分析などで採用されていた分析手法で、攻撃者の行動パターンを分析します。
ただ、防御者にとって、TTPの作成や適用は難易度が高いもの。その分、攻撃者にとっても攻撃しにくくなります。
ツール
Pyramid of Pain(痛みのピラミッド)でいう「ツール」とは、攻撃者が利用する悪意あるソフトウェアや実行ファイル、コマンドなどのことです。
マルウェアなどがこれに該当します。
ネットワーク・ホストアーティファクト
ネットワーク・ホストアーティファクトとは、攻撃者が意図的にターゲットのネットワークやホストに残す痕跡のことです。ツールやネットワーク機器で取得されるログなども、これに該当します。
インシデントが発生した際に、複数の被害で共通のアーティファクトが見つかることもあれば、特定の攻撃にのみ見られるアーティファクトもあります。複数のアーティファクトを複合的に分析することで、インシデントの全体像に近づくことができます。
ドメインネーム
ドメインネームを分析することで、攻撃発生元を特定できる可能性があります。
サイバー攻撃に利用される悪性ドメインネームを特定できる技術や、悪性ドメインネームをカテゴライズして各カテゴリに有用なセキュリティ対策を提示してくれるサービスもあります。
ただ、攻撃者は日々、新たなドメインネームを用意してサイバー攻撃に利用しており、簡単に攻撃発生元を特定できるものではありません。防御者にとっても分析に取り組みやすい分、攻撃者にとっても攻撃に活用しやすいものだといえます。
IPアドレス
IPアドレスも、上記のドメインネームと同様、攻撃発生元を特定するのに役立つ要素です。
ただ、これも防御者が分析しやすいものの、攻撃者にとっても痛みの少ないものです。
ハッシュ値
ハッシュ値とは、任意のデータから別の短い値を得るための「ハッシュ関数」を用いて生成された値で、SHA-1(シャーワン)やMD5(エムディーファイブ)などがよく利用されます。
マルウェアが疑われる怪しいファイルなどから取得したハッシュ値をほかのハッシュ値と比較することで、同一性を証明できます。
ただ、攻撃者がハッシュ値を変更することもできるため、ハッシュ値の追跡には意味がないともいわれます。